嗚呼、このろくでもなく素晴らしき日常に

日常の中で起こった出来事や感じた事等を赤裸々に、そしてちょっぴりユーモラスに綴るブログ

抜いてSorrow  

 

 

田舎というのは何故こうもしがらみだらけなのだろうか


僕の住む地域は都会の喧騒とは無縁な山と川に囲まれたど田舎だ

今でこそ交通の便等も良くなりつつあるが、それでも最寄りのコンビニでさえ散歩がてら気軽に行ける距離にはない

古よりの風習も根強く残っており、それはこの地域で生活していく為には避けて通る事はできない

そしてその忌まわしき風習の人柱となるのが各家庭の長男である

その風習の一角でもあるのが消防団と呼ばれるものだ

長男である僕も社会人になった頃から定期的に消防団からの刺客がしつこく勧誘に来ていたのだが
その刺客の中にはすでに人柱となった従兄がいた為、従兄の計らいで何とかそれを逃れていた

しかし少子化が進むに連れ、通っていた小学校ですら合併の波に飲まれてゆく現状

更には若者達も次々とこのしがらみを逃れるかの様にネオン輝く街へと移り住んでゆくこの昨今

 

消防団でも人手不足が深刻となり、20代後半になった頃から今まで僕を消防団の魔の手から遠ざけてくれていた従兄ですら半ば強引に勧誘に来る始末

根負けした僕はとうとう人柱となってしまったのだった


消防団というのは各地域の人間で構成された組織で、地元で火災等が起こった時には消防士の方達と一緒に火を消しに行く

それだけではなく、年に1度開催される操法大会というものに出場し、日頃の訓練の成果を競う

因みにこの大会は火災が起きた事を想定して行われる

いかに規律正しく、いかに早く火を消せるかを競う物だ

毎年大会の時期になると、仕事を終えた選ばれし人柱どもが夜な夜な場末のグラウンドに集まり日々練習を重ねる

しかし、この大会の為に強要される一連の動作は実際の火災現場では一切何の役にも立たない

他にも地域のお祭りの警備から謎の講習等

入ったら最後、年間を通して消防団活動を行わなくてはならない


この消防団、何故か好き嫌いが大きく別れる

好きな者は特に大会の時期になるとそれはもう行きつけのスナックの如く足しげく顔を出す

そして大会後の打ち上げでは半ば無理やり感動的な空気を作り出し涙する

まぁ、それだけ真剣なのだろう

そんな姿をいつも生温い目で見ている後者側の僕からしたらそんな彼らが羨ましくさえ思えた

嫌ならばそんな所に入らなければ良いではないかと思われる方も居るかと思うのだけれども

そこが田舎の忌まわしきしがらみでもあるのだ

この田舎では消防団然別、地域の集まり等を疎かにする者に対しては、もれなく村八分という制裁が待ち構えている


そして田舎での噂が広まるスピードは軽く音速を超え、各集落へと伝達される


あいつはろくすっぽ消防に顔を出さない怠けた奴だと揶揄され、たまに渋々顔を出した頃には漏れなく冷やかな視線…

そんな者に居場所などある筈もなく、ただただ片身の狭い思いを強いられる

自分だけが被害に会う分にはまだ良いのだが今後、子供や、自分の家族にまで被害が及ぶのだけはどうしても避けたい

だからこの小さな町で暮らして行く為には誰かが人柱となり、村八分という魔の手から各々の家庭を守っていかなくてはならないのだ


田舎と言う名のクモの巣に掛かってしまった以上、やらないという選択肢は皆無なのだ


それはさておき、この消防団では年に1度、2月頃に研修と言う名の旅行が存在する

2月も近づいたある日、渋々消防団の活動へと赴くとそこには既に浮かれきった先輩達が旅行の会話で盛り上がっていた


「俺達は毎年大阪旅行に行くんだぜ、大阪最高フゥー!」


一体何が彼らをそこまで大阪へと駆り立てるのだろうか

こいつらは大阪で本場のお笑いでも研修してくるのだろうか

消防団の連中と馴れ合うつもりなど皆無であり、付かず離れずの距離を保っていた僕の目には、浮かれる先輩達の姿がどこか滑稽にすら映った

当然そんな旅行などに行くつもりもなく毎年断っていたのだがそんなある日の事、消防団に僕と同期で入った斎藤君がこんな事を言ってきた

 

「俺、今年は旅行に行こうと思うんだ」

 


「へぇ…そうなんだ…」

興味の無い僕は素っ気ない返事をしたのだが、続けて彼は話し出した


「旅行には行きたいんだけど周りは先輩だらけで仲が良い人が居なくてさぁ…だからAKIHIRO君も一緒に行こうよ」

 

ふん、誰がそんな旅行などに行くものか

そんなものに行く位なら行きつけの場末のスナックの薄暗い明かりに照らされた厚化粧のババァ達としっぽり飲んでた方がよっぽどマシだぜ


「いやぁ、僕は旅行とかはあまり…」

断ろうとした僕の言葉を覆い被すかの様に彼は言った

 

「嫌だ嫌だ!AKIHIRO君も来てくれなかったら俺もう旅行なんか行かない!」


あろう事か駄々をこね始めたのだ

30代のオッサンが駄々をこねる姿を初めて見た

呆れながらも断ろうとする僕だったのだが、その様子を見ていた先輩が何やら近づいてくる

「何だお前、旅行に行かないのか!あんな楽しい旅行に行かないやつなんてどうかしてるぜ!」


既に大阪という名の魔物に取り憑かれた先輩は、あろう事か斎藤君を擁護し始めた所か、他の先輩達も加わり謎の説得が始まった

まるで旅行に行かないやつは大罪人で、お前は悪だと良く分からない説教までされ、断るに断れない状況になってしまった


かくして僕は消防団の旅行に行く事になってしまったのだった

 


旅行当日

早朝5時に集合し、これ本当に大丈夫なのかと思わず息を飲む程のボロいマイクロバスに乗り込む

待ちに待った大阪旅行という事で先輩達はもう浮かれきっていた

出発早々酒盛りを始め、チンチロリンという賭け事まで始めた出した

あれだけ1人で参加する事を嫌がっていた同期の斎藤君もいつの間にかチンチロリンに加わって盛大に盛り上がっていた


普通に馴染んでんじゃねぇかと少しイライラしつつも、おんボロバスはその見た目とは裏腹に軽快な足取りで高速道路に乗った


しかし高速道路を走行中、いきなりマイクロバスのドアが開き、暫くそのまま爆走しているのを見た時は無事に帰れる事だけを切に願った

 

丁度、自分達が住む県を跨ぐ手前だっただろうか

同期の斎藤君はチンチロリンでコテンパンにやられたらしく、大阪に入る前に有り金全てを持って行かれていた

そして僕らを乗せたバスは無事、大阪へと到着

全力で落ち込む斎藤君をよそに、テンション駄々上がりの一行


僕は産まれてこの方、大阪に行ったことが無かった事もあり少しだけワクワクしていた

ホテルにチェックインした後、皆で居酒屋を巡り歩き昼間から酒を飲んで騒いだ


あんなに乗り気じゃなかった旅行なのに、気が付けば心から楽しんでいる自分が確かにそこに居た

いざ酒を酌み交わしてみると皆思っていたより気さくで楽しい人ばかりだった

皆との距離も少しだけ縮まった気がした


今まで嫌いな消防団活動への不満をいつしか消防団の皆に転嫁して何処か見下し壁を作っていた自分が恥ずかしく思えた


居酒屋を出たのは21時頃だっただろうか

まだまだ夜は長い、次に何処へ行こうかなんて話しになり

先輩達が大阪に来た際には必ず行くというお店に連れて行って貰う事になった

暫く歩くと歩道の脇に地下へと続く階段があり、降りた先の分厚い扉を開く

するとそこには6畳程の部屋があった

くたびれたソファーとチープなテーブル、久しぶりに見たブラウン管のテレビだけがその静寂を埋めるかの様に鳴り響いていた


そして暫くすると奥からイカツイお兄さんが出て来て前金として5000円取られたのだが、一向にメニュー表すら出てこない

僕は急に怖くなった

まさか先輩達は田舎に住む余りぼったくりバーという存在を知らず、5000円払って何もサービスを受けないという事が都会の流儀だと信じ込んでおり、それがお洒落だと勘違いしているのではないのか

だとしたらそれは間違いだとすぐに教えてあげなくてはならない

とにかく一刻でも早くこの場所から離れなくてはと焦る僕だったが

「お待たせしましたぁー!」

イカツイお兄さんの声と共に、更に奥の扉が開いた


扉の奥からはチープなこの部屋のブラウン管の音とは明らかに違うクラブミュージックの重低音が響き渡っており、複数の若い女性の声が聞こえる

 

「いらっしゃいませー」

 

 


セクキャバだった

 

セクキャバとはセクシーキャバクラの略称で、ソファーに同席した女性接客係が飲食を共にしながら体を触らせるサービスを行う店である

 

自慢ではないが僕は産まれてこの方、風俗店の類いを利用した事がなかった

勿論、興味がない訳ではないのだが
そこにお金を使うのならば趣味等に投資したいと考えていたからだ


別に決して童貞だとか今までビビって行った事ないとかそんなんでは無いのだ


もう一度言うがそんなんでは決して無い、分かって欲しい


先輩達と一緒とはいえ、初めてそういったお店に入るのはとても勇気がいった


何も分からずただ、これから起こる得たいの知れない体験に恐れ慄いていたのは案内されたソファーに座るまでだった


5分後にはそこは楽園も楽園、僕にとってのワンピースとなっていた


ピャー!!超楽しい!!

その時の僕はきっと海賊王だっただろう

そして海賊王は延長に延長を繰り返しながら散々散財した後その店を出た

 

しかし所詮はセクキャバ、漢の欲求全てが満たされる場所ではない

何だこの不完全燃焼感とムラムラ感は

やはりここまで来たら俺のゴムゴムのピストルを発射させなければこの旅は終われない


どうやらここは俺のワンピースではなかった様だ


僕は近くにいた斎藤君を仲間に誘い、新たなるワンピースを求め新世界を目指す事にした


しかし至極ムラムラはするものの、大阪に到着する前に有り金を失いチビチビとATMでお金を下ろしていた斎藤君は一緒に行くのをかなり躊躇っていたが僕は引き下がらなかった

「嫌だ嫌だ!!抜くまで絶対帰らないから!!」

僕の熱烈な勧誘に心射たれたのか
なけなしのお金をATMで下ろし、一緒に付いて来てくれる事となった

しかしここはまだ未開の地、どこに行けば良いのかも分からずただ夜の街を徘徊するオッサン2人

途方に暮れていると1人の男が声を掛けてきた

「お兄さん、どっかお店探してます?良い店ありますよ!」


何て親切なお兄さんなのでしょう


ムラムラが最高潮だった僕らは迷わずそのお兄さんが紹介するお店に付いて行く事にした

そして案内所と謳ったボロいアパートに通されると、そこには玄関という名の受付があり、そこにはチャラついたお兄さんが待ち構えていた

彼はがおもむろに複数のカードを取り出す

しかし、そのカードはボカシだらけで
かろうじて人という事位しか分からない女性のブロマイド

よく見るとそのカードの右上の方に星のマーク

「いらっしゃいお兄さん、このカードの中から好きな女の子選んじゃって下さい」


何てこった、このノーヒントに近いカードで一体何を選べというのか


続けてチャラ兄さんは言う

「右上に星があるでしょ?1~5まであるんですけど、星4以上は間違いないっすよ」


ガチャかよ


迷った僕と斎藤君はその星だけを頼りにそれぞれカードを選んだ


僕らはその場で15000円課金した

 

カードを選ぶとすぐに待合室らしき所に案内された

待合室と言ってもアパートの一室だ

しかしそこは、窓ガラスに黒色のガムテープで外が見えない様に養生してあってかなり怪しい

更には電気もブルーライト仕様になっており部屋一面に充満した煙草の煙がより怪しさを際立てる


まるで警視庁24時とかに出てくる様な現場だった

期待と不安が入り雑じる中待った


夜中の2時位だっただろうか、ようやく僕の番号が呼ばれる

斎藤君を残し、さっきのチャラ兄さん付いて案内所を出た

 

向かった先は案内所の目と鼻の先にあるビジネスホテルだった

部屋の玄関の前まで来るとチャラ兄はこう言った

「ここの部屋で待ってて下さい、直に女の子来ますんで」


かくして僕はビジネスホテルの一室で女の子が来るのを待つ事となった


僕の胸には期待しかなかった

何故なら、持ち合わせの関係で星5は選べなかったけど星4の女の子を撰んだ、これはもう間違いない

そう、言わば僕はレア確定ガチャを引いた様なものなのだから

僕の胸とイチモツは期待と性欲で膨らんだ

ムダ毛はないか入念にチェックしキメ顔の練習、更にはソワソワする自分を律する為、腕立て伏せもやった

僕の上腕二頭筋も温まって来た頃、部屋のインターホンの音色が静かな一室に響き渡った

来たぁあーーっ!!

興奮する自分を隠し、練習したキメ顔を作る

あたかも俺は風俗に興味なんて無いのだけれど、連れに無理やり来されられちまってマジで勘弁して欲しいぜ

的な気だるい雰囲気を醸し出しながら玄関のドアを開けた

ガチャ…


「こんばんはー」


…聞いた事がある、霊とか妖怪の類いは丑三つ時と呼ばれる深夜2時から2時半位の時間帯に現れると

何かがおかしい、今僕の瞳には恐らく見えてはいけないものがハッキリと映っている

 

古より受け継がれて来たかの様な汚ならしいピンク色の布を身に纏った何かがこっちを見ているではないか

例えるならばそう、ワンピースに出てくるドフラミンゴが着る様なジャケットを着た小泣きジジィみたいな妖怪だ

まるで物語の垣根を超越して来たかの様なそれが静かに佇んでいた

 

せめて水木か尾田かはっきりさせてくれよ…


恐怖よりも先にそんな感情が僕を襲った


しかし僕にはチェンジする勇気も徐霊するスキルもなく、渋々その小泣きミンゴを部屋へと招き入れた


部屋に入るなり、小泣きミンゴは慣れた様子でスルスルと服を脱ぎ始めながらこうほざく

「どうしたの?お兄さんも早く脱いでよ」


楽しかったこれまでの大阪旅行の想い出が走馬灯の様に流れ、涙で視界が霞んだ

しかし、小泣きミンゴが汚ねぇパンツを脱いだその刹那、涙目だった僕の目に衝撃的な物が飛び込んで来た

何あれ…これって…尻尾…?

部屋は暗がりで、ましてや僕の目は涙で視界が悪かったのにも係わらず、確かに奴のケツから30センチ程の白い尻尾が生えているではないか


僕は覚悟した、あぁ…僕はこれから喰われるんだ…


よく見たらケツに挟まったトイレットペーパーだった

 

どんだけ鈍いケツしとんねん!

 

そして小泣きミンゴは良い女気取りな口調でシャワーに行こうと僕を誘った


完全に闘志を失った僕は小泣きミンゴとシャワーを浴びた


終始無言の僕とは裏腹にシャワーの音だけがその沈黙を埋める


ケツに挟まったままのトイレットペーパーも次第に溶けていった


コイツ、良く見たら結構濃い目のパイ毛が生えてやがる

募る悲壮感とイライラ感


そして小泣きミンゴは僕をベットへと誘った


僕は決めた、もうコイツがどんな技を繰り出して来ようとも終始無言で無表情を決め込んでやる

それが今の僕にできる全力の足掻きだった

 


あっ!あっ!あー!ヤバっ!


妖怪並みのテクニックで僕のゴムゴムのピストルは秒で暴発した


悔しさと惨めさと得体の知れない恍惚感が僕を襲った

ニヤリとほくそ笑む小泣きミンゴ


「あ…あれれぇ?おかしいなぁ…いつもはこんなに早くないのになぁ…長旅で疲れちゃったのかなぁ…アハハ…」

振り絞った台詞が更に僕を惨めにさせた


予定よりかなり時間が余ってしまい、お互い無言でベットに横たわる

すると静寂を切り裂く様に小泣きミンゴが音楽を流して良いかと尋ねた


断る理由もなく僕はそれを承諾した

 

携帯から何やら音楽が流れ出す


~♪プリッキュア、プリッキュア♪

 

 

そこは鬼太郎かワンピースだろうが!!

 

 

こうして僕のほろ苦い大阪旅行は幕を下ろした

 

 

子泣きミンゴと別れた後、トボトボ歩いていると人気のない深夜の路地に人影が

 

恐る恐る近づいてみると、そこには既に別の妖怪と対峙し一夜で廃人と化した斎藤君が脱け殻の様に佇んでいたのを見て何か申し訳なくなり牛丼を奢ってあげた

 

 

 

後日、同級生と月一で行っている飲み会の旅行積み立てがある程度溜まり何処へ行こうか計画を立てていた

 

「なぁお前達、大阪はいいぜぇ?大阪サイコーフゥー!」

 


僕はこの年だけで4回大阪に行った