和田がキレた日
あぁ…また平凡な一日が始まる
僕だって分かってます、平凡と言う事がいかに幸せかという事ぐらいは
しかし分かっていてもどうしても心の奥底でどこか変化を求めてしまっている自分が居る
まぁ、いわゆる贅沢病ですね
そこで何かアクションを起こせる人は大したものです
僕なんかビビって何も動こうとせずただブーブー言ってるだけ
だから僕がそんな事言う資格は無いんですけどね
毎日毎日換気扇製造、寝ても覚めても換気扇
もう飽きたわバカ
これは、そんな平凡な毎日に変化を起こすべくたった一人立ち向かった男の物語
うちの会社にいる和田さん
多分40過ぎの良い歳こいたオッサンだ
僕は和田さんの事がイマイチ好きになれない
何故かと言うと、彼は重い物を持つ時に
うぅぉおりゃぁあー!!と一本グソでもひねり出したかの様な叫び声を出すし
もう会話としか思えない程の独り言を言うはクサいは…
もう挙げ出したらきりがない
そんなある日の事
とある製品を製造するにあたり、和田さんの仕事量が多かったので皆で分担する事になった
文句を言っても地球は回るしラインは流れるし、恋人達は愛し合うので仕方がないのでやる事にした
しかし、いざ振り分けられた和田さんの仕事をやってみて分かったのだが、それは思いの外難しく大変な作業で、とても今の僕の手に負える様なものではなかった
こんな事を毎日やっていれば叫んだり独り言も言いたくもなるだろう、更にはクサくもなるのも仕方がない
これ程の作業を毎日嫌な顔一つせずこなしていたんだと思うと、今まで彼の事をどこか見下して苦手意識を持っていた自分が情けなく思えた
そんな和田さんに対して、現場のリーダーも「他にも大変な作業があったら改善するから教えてね」と優しく声を掛けたその刹那だった
和田氏がこの平凡な毎日に変化を起こすべく動き出した
ぶっ殺すぞコルァアア!!
もう何ていうか、色々と突っ込み所がありすぎてその場にいた誰もが凍りついた
その間にも、和田氏はまるで縄張りを荒らされ怒り狂ったメスゴリラの様な形相でリーダーへと襲いかかっていた
実は彼、以前にもこの様な事件を起こしている
前回僕は突如始まった異種格闘技戦に対し、ただニヤニヤと見ているだけだった
しかし、今回は前回失いかけた信頼と言う名の宝物を取り戻すべくリーダーを助ける事にした
その間にもリーダーはメスゴリラから豪快な右フックを2、3発程もらっていたが、とにかく僕は我を忘れて怒り狂うメスゴリラの元へと駆け寄った
そして怒りで火照ったその身体を抱きしめ、取り押さえる事に成功した
こんなにも強く誰かを抱きしめたのは初めてだったかもしれない
発狂し過ぎて言葉の原型を留めていなかった和田さんも、こんなにも強く誰かに抱きしめられたのは初めてだった様で、すぐに落ち着きを取り戻した
騒動も収まり僕はふと思った
形はどうあれ行動を起こした和田さんは確かに僕にはない何かを持っていた
何かを変えたければ、まず自分から行動しなければならない事を学んだと同時に少しだけ彼に対する見方が変わった気がした
そして気が付けば僕の作業服は彼のヨダレと和田臭に包まれていた
僕は思った
ぶっ殺すぞコルァアア!!
やっぱり僕は和田さんの事をイマイチ好きになれない